まかそうと努めたのではあるまいか。家出のその夜まで良人《おっと》の寝床をとったり、寝巻をあたためたりして行ったのは、その関係がどこまでも形式的な虚偽的なもので僅《わずか》に保たれていたのだという見地から、夫人にはたとい夫があり子供があったとしてもまだ一度も愛の満足を得ていなかったという意味で、結婚したことのない婦人ともいえると説き、彼女の満《みた》されなかったもの、しかも外部の種々な圧迫のために抑制することを余儀なくされていた愛の要求が、純な愛情と若い燃えやすい情熱との所有主であるものに向いて動いていったことは自然の心理ではないか、赤裸《せきら》な人間の愛の真実の前に、他の一切を忘れて有頂天《うちょうてん》になったとしても無理もなく、論理的の立場から見ても、その結婚が全然第三者の意志によって強制されたものであるから、厳密にいえば夫人はその結婚に対して責任をもっていないのだ。その方法さえ誤らなければ、同時にそれを実行するだけの実力を備えていれば、出立点からして間違っていた結婚をただ単に継続することによって生きながら死者の生活を送るよりも、それを破壊する方がどれだけ論理的であるか知れないと
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