から迎えがいったので、客の二人は以前の家へ引返して朝飯をすませた。午《ひる》飯には三本のお酒の注文があり、その他に餅菓子の注文もした。名所絵葉書十枚、巻紙封筒をも取寄せて両人はしきりに書面を認《した》ためていた。沈みがちであった二人のうち、わけても女は打沈んでいた。一時頃には女の方は腹痛だといって俯伏《うつぶ》しになって、十銭の振りだし薬を買わせて服《の》んだりした。男の方は女中にむかって、芸者を招《よ》んでくれといってきかなかったが、女の方がしきりに遮《さえぎ》って止めた。午後三時ごろ支払いをすませて、二人は勢いよく袖《そで》をつらねてその家の門口を出た。
その夜、鎌子を引倒した列車に乗っていた機関手は、その刹那《せつな》の模様を語った。
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「私の列車が進んでゆくと、男女は確乎《しっかり》と抱きあい、一つになって蹲《うずく》まっていたところから変だなと思っていると果然|件《くだん》の男女は抱きあったまま線路に飛び込み、あわやと思う間に男女共一緒に跳ねとばされたが、女は倒れたけれども男はあまり負傷もしない様子で、女の上に乗りかかり泣きながらやや高い声で、『貴女一
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