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この手紙は今年の春(大正十一年)中野の隠れ家《が》からうけた一節で、
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只今お手紙ありがたく拝見いたしました。実はわたくし、二、三日前からすこし気分がすぐれませんので床《とこ》についております。急に脈がむやみと多くなって、頭がいやあな気持ちになる、なんとも名のつけられない病気が時たま起りますので。でも今日は大分《だいぶ》よろしゅう御座いますから、早速御返事申上げて置こうと、床の中での乱筆よろしく御判読願い上げます。(中略)仰せの通り世間のとかくの噂《うわさ》の中にはずい分、いやなと思う事もないでも御座いませんけど、これも致方《いたしかた》がないなり行きだと、今までもあまり気にかけたことも御座いません。
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私信の一部を公にしては悪いが、わたしの筆に幾万言を費《ついや》して現わそうとするよりも、この書簡の断片の方がどれだけ雄弁に語っているか知れない。はじめからそういうふうに冷淡に、噂《うわさ》を噂として聞流す女性はすくない。
いつぞや九条武子《くじょうたけこ》さんと座談のおり、旅行のことからの話ついでに、
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