》した。それは、伝右衛門氏が五十二歳であるということや、無学な鉱夫あがりの成金《なりきん》だなぞということから、胡砂《こさ》ふく異境に嫁《とつ》いだ「王昭君《おうしょうくん》」のそれのように伝えられ、この結婚には、拾万円の仕度金が出たと、物質問題までが絡《から》んで、階級差別もまだはなはだしかったころなので、人身御供《ひとみごくう》だとまでいわれ、哀れまれたのだった。
人身売買と、親戚《しんせき》補助とは、似ていて違っているが、犠牲心の動きか、強《し》いられたためか、父と子のような年のちがいや醜美はともかくとして、石炭掘りから仕上げて、字は読めても書けない金持ちと、伝統と血統を誇るお公卿《くげ》さまとの縁組みは、嫁《とつ》ぐ女《ひと》が若く美貌《びぼう》であればあるだけ、愛惜と同情とは、物語りをつくり、物質が影にあるとおもうのは余儀ないことで、それについて伯爵家からの弁明はきかなかった。
だが、そのままでは、※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子さんはありふれた家庭悲劇の女主人公になってしまう。甘んじて強いられた犠牲となったのかどうか。それは彼女の後日が生きて語ったではないか
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