待ちかね寝《いね》し子の枕辺《まくらべ》におく小さき包
子らはまだ起きて待つやと生垣《いけがき》の間《あい》よりのぞく我家のあかり
子をもてば恋もなみだも忘れたれああ窓にさす小さなる月
ああけふも嬉しやかくて生《いき》の身のわがふみてたつ大地はめぐる
[#ここで字下げ終わり]

 なんという落附いた境地だろう。この安心立命の地を、武子さんはどう眺めたろう。おおそういえば、※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子さんは面白い話をしたことがある。武子さんが九州へゆかれたとき、伊藤伝右衛門氏は、筑紫の女王のところへ、本願寺の生菩薩《いきぼさつ》さまが来られるときいて有頂天《うちょうてん》になり、座ぶとんは揃《そろ》えて、緞子《どんす》、夜具類はちりめん、襖《ふすま》をはりかえさせ、調度は何もかも新しく、善つくし、美を尽さねばならぬときめた。それはおなじ九州のある豪家へ武子さんが招《よ》ばれた時には、何千円かを差上げて来ていただいたというのに、我家《わがや》へは無償でこられるということより何より、それほどの人にわが成金《なりきん》ぶりと、何処にも負けない豪奢《ごうしゃ》ぶりを見せなければお
前へ 次へ
全33ページ中31ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング