き、語りながら※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子さんは面《おもて》をふせた。
 ※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子さんは働きだした。達者《たっしゃ》に書いた。長編小説でもなんでも書いた。選挙運動には銀座の街頭にたって、短冊《たんざく》を書いて売った。家庭には荒くれた男の人たちも多くいるし、廃娼《はいしょう》したい妓《ひと》たちも飛込んできた。そのなかで一ぱいに立ち働らきもする。かつての溜息《ためいき》は、栄耀《えよう》の餅《もち》の皮だと悟りもした。
 いつわらぬ心境を歌にきこうと、最近、以前のと近ごろとの歌を自選してくださいとおたのみしたらば、こんなのが来た。
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筑紫のころ
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われはここに神はいづこにましますや星のまたたきさびしき夜なり
和田津海《わだつみ》の沖に火もゆる火の国にわれあり誰《た》そや思はれ人は
われなくばわが世もあらじ人もあらじまして身をやく思ひもあらじ
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その後《ご》
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思ひきや月も流転《るてん》のかげぞかしわがこし方《かた》に何をなげかむ
かへりおそきわれを
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