た御配慮に対しては厚く御礼を申上げます。
二伸、私の宝石類を書留郵便で返送致します。衣類などは照山《てるやま》支配人への手紙に同封しました目録通り、凡《すべ》てそれぞれに分け与えて下さいまし。私の実印は御送り致しませんが、もし私の名義となっているものがありましたらその名義変更のためには何時《いつ》でも捺印《なついん》致します。
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十月廿一日[#地から2字上げ]※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子
伊藤伝右衛門様
この手紙が出るまでもなく、前日の家出だけでも、事件はお釜《かま》の湯が煮えこぼれるような、大騒ぎになっていた。各新聞社は、隠れ家《が》の捜索に血眼《ちまなこ》だったが、絶縁状が『朝日新聞』だけへ出ると物議はやかましくなった。しかも、その手紙が、肝心な夫《おっと》伝右衛門氏の手にはまだ渡っていないのに、新聞の方がさきへ発表したというので騒いだ。黒幕があるというのだ。
おなじ廿三日の、おなじ欄に、伝右衛門氏の九州福岡での談話が載った――
「天才的の妻を理解していた」という見出しで、
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互《たがい》の
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