はどんなに頼り少く淋しい日を送ったかはよもや御承知なきはずはないと存じます。
私は折々我身の不幸を果敢《はか》なんで死を考えた事もありました。しかし私は出来得る限り苦悩を、憂愁を抑《おさ》えて今日まで参りました。この不遇なる運命を慰めるものは、唯《ただ》歌と詩とのみでありました。愛なき結婚が生んだこの不遇と、この不遇から受けた痛手《いたで》から私の生涯は所詮《しょせん》暗い帳《とばり》の中に終るものだと諦《あきら》めた事もありました。しかし幸《さいわい》にして私には一人の愛する人が与えられて私はその愛によって今復活しようとしているのであります。このままにして置いては貴方に対して罪ならぬ罪を犯すことになることを怖《おそ》れます。もはや今日は私の良心の命ずるままに不自然なる既往の生活を根本的に改造すべき時機に臨みました。虚偽を去り真実につくの時がまいりました。依《よ》ってこの手紙により私は金力《きんりょく》を以って女性の人格的尊厳を無視する貴方に永久の訣別《けつべつ》を告げます。私は私の個性の自由と尊貴を護《まも》りかつ培《つちか》うために貴方の許《もと》を離れます。永い間私を御養育下され
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