了しつくしてしまって、銅御殿《あかがねごてん》の女王火の国の白蓮と、その才華美貌を讃《たた》える声は、高まるばかりであった。伝右衛門氏は、それほどの女性《ひと》を、金で掴《つか》んでいるというふうに、好意をよせられないのもしかたがなかった。
 だが、その時でも、どこまであの生活がいやなのか、あの歌のどこまでが真実なのかといったのは、彼女をよく知っていた人だと私は前にもいったが――

       三

 大正十年十月廿二日の、『東京朝日新聞』朝刊の社会面をひらくと、白蓮女史|失踪《しっそう》のニュースが、全面を埋《う》めつくし、「同棲《どうせい》十年の良人《おっと》を捨てて、白蓮女史情人の許《もと》へ走る。夫は五十二歳、女は二十七歳で結婚」と標柱して、左角の上には、伊藤|※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子《あきこ》の最近の写真の下に宮崎|竜介《りゅうすけ》氏のが一つ枠《わく》にあり、右下には、伊藤伝右衛門氏と※[#「火+華」、第3水準1−87−62]子さんの結婚記念写真が出ていた。
 その記事によると、十月二十日午前九時三十分の特急列車で、福岡へかえる伝右衛門氏を東京駅へ見送
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