わが魂《たま》は吾《われ》に背《そむ》きて面《おも》見せず昨日《きのう》も今日も寂しき日かな
骨肉《こつにく》は父と母とにまかせ来ぬわが魂《たましい》よ誰れにかへさむ
追憶の帳《とばり》のかげにまぼろしの人ふと入れて今日もながむる
船ゆけば一筋白き道のあり吾《われ》には続く悲しびのあと
誰《たれ》か似る鳴けようたへとあやさるる緋房《ひぶさ》の籠《かご》の美しき鳥
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 歌集のようになるが、もう二、三首ひきたい。
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殊更《ことさら》に黒き花などかざしけるわが十六の涙の日記
わが足は大地《だいち》につきてはなれ得ぬその身もてなほあくがるる空
毒の香たきて静かに眠らばや小がめの花のくづるる夕べ
おとなしく身をまかせつる幾年《いくとし》は親を恨みし反逆者ぞ
殉教者の如くに清く美しく君に死なばや白百合の床《とこ》
昔より吾《われ》あらざりし其世より命ありきや鈴蘭の花
息絶ゆるその刹那《せつな》こそ知るべくや死《しに》の趣《おもむき》恋のおもむき
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 三十三歳の豊麗な、筑紫《つくし》の女王白蓮は、『踏絵』一巻でもろもろの人を魅
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