事が知れる。
そうした幸運の人々の中には現総理大臣|原敬《はらたかし》氏の夫人もある。原氏の前夫人は中井桜洲《なかいおうしゅう》氏の愛嬢で美人のきこえが高かったが、放胆《ほうたん》な家庭に人となったので、有為の志をいだく青年の家庭をおさめる事は出来にくく離別になったが、困らぬように内々《ないない》面倒は見てやられるのだとも聞いていた。現夫人は、紅葉館の妓《ひと》だということである。丸顔なヒステリーだというほかは知らない。おなじ紅葉館の舞妓《まいこ》で、栄《さかえ》いみじい女は博文館《はくぶんかん》主大橋新太郎氏夫人須磨子さんであろう。彼女は何の理由でか、家を捨て東京へ出て来ていたある旅館の若主人の、放浪中に生せた娘であったが、舞踊にも秀《ひい》で、容貌は立並んで一際《ひときわ》美事《みごと》であったため、若いうちに大橋氏の夫人として入れられた。八人の子を生んでも衰えぬ容色を持っている。越後から出てほんの一|書肆《しょし》にすぎなかった大橋氏は、いまでは経済界中枢の人物で、我国大実業家中の幾人かであろう。傍《かたわ》らに大橋図書館をひかえた宏荘の建物の中に住い、令嬢豊子さんは子爵金子氏
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