や、突飛《とっぴ》ということが辞典から取消されて、どんなこともあたり前のこととなってしまった。実に「驚異」横行の時代であり、爆発の時代である。各自の心のうちには、空さえ飛び得るという自信をもちもする。まして最近、檻《おり》を蹴破り、桎梏《しっこく》をかなぐりすてた女性は、当然ある昂《たか》ぶりを胸に抱く、そこで古い意味の(調和)古い意味の(諧音)それらの一切は考えなくともよいとされ、現代の女性は(不調和)のうちに調和を示し、音楽を夾雑音のうちに聴くことを得意とする。女性の胸に燃えつつある自由思想は、各階級を通じて(化粧)(服装)(装身)という方面の伝統を蹴り去り、外形的に(破壊)と(解放)とを宣言した。調《ととの》わない複雑、出来そくなった変化、メチャメチャな混乱――いかにも時代にふさわしい異色を示している。
 時代精神の中枢は自由である。束縛は敵であり跳躍は味方である。各自の気分によって女性は、おつくりをしだした。美の形式はあらゆる種類のものが認識される。
 黒狐の毛皮の、剥製標本《はくせいひょうほん》のような獣の顔が紋服の上にあっても、その不調和を何人《なんぴと》も怪しまない。十年
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