、どんなに現わし得ない感謝をもって、およろこびなされている事かと、あたくしでさえ嬉しい心地がいたします。そして風物は悠々《ゆうゆう》として、あなたの御健康を甦《よみが》えらせていることとぞんじます。
二
らいてうさま、
那須野《なすの》を吹く風は、どんな色でございましょう。玉藻《たまも》の前《まえ》の伝説などからは紫っぽい暗示をうけますが、わたくしの知る那須野の野の風は白うございます。冬など、ふと灰色がかるようにも感じられますが、わたくしには何となく白いように思われます。その白さも、薔薇《ばら》の白《ホワイト》ではなくて、白夜、白雨といった感じ、夏らしい清新の感がともなっております。
わたくしは那須野をよく知りません。奥州《おうしゅう》へ行ったおり、時折通りすぎた汽車の窓からあかず眺めて通ったところで御座います。あの広々した野を見ると、せせこましい、感情にのみ囚《とら》われている自分から解きほどかれて、自由な、伸々《のびのび》した、空飛ぶ鳥のような勇躍をおぼえました。わたくしは山は眺めるのを好みます。海の眺めも好きです。が、野の景色ほどしみじみと好きなものはござ
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