ひおけ》もなく待《まち》あかしていたこともあった。彼女が手伝って掃除《そうじ》すると、まめやかな男主《あるじ》は、手製のおしるこを彼女にと進めたりした。彼女はその日のことを記した末、
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半井うしがもとを出《いで》しは四時ころ成りけん、白《はく》皚々《がいがい》たる雪中、りん/\たる寒気をおかして帰る。中々おもしろし、堀ばた通り九段の辺《あたり》、吹《ふき》かくる雪におもてむけがたくて頭巾《ずきん》の上に肩かけすつぽりとかぶりて、折ふし目《め》斗《ばかり》さし出すもをかし、種々の感情胸にせまりて、雪の日といふ小説の一編あまばやの腹稿なる。
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とある。恋に対して傲慢《ごうまん》であった彼女にも、こうした夢幻境もあった。恋という感想に、
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我はじめよりかの人に心をゆるしたることもなく、はた恋し床《ゆか》しなどと思ひつることかけてもなかりき。さればこそあまたたびの対面に人げなき折々はそのことゝもなく打かすめてものいひかけられしことも有《あり》しが、知らず顔につれなうのみもてなしつるなり。さるを今しもかう無き名など世にうたはれて
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