何故《なぜ》というのに、自分ばかりのことでなく、母もあれば兄妹《きょうだい》もあるので」
と答えた。
「では言わなければならないことでありますが、貴女は半井さんと交際を断つ訳にはいかないでしょうか」
といった。
彼女は友の視線があまりまぶしいので、何事と知らねど胸の中にもののたたまるように思われた。
「妙なことを仰しゃるのね。それは何時《いつ》ぞやもお咄《はなし》したとおり、あの方はお齢《とし》も若いし、美しい御顔でもあるし私が行ったりするのは、憚《はば》からなけりゃなるまいと思っています。幾度交際を断とうと思ったかも知れはしません。けれど受けた恩義もあり、そうは出来かねているのよ、私というものの行いに、汚れのないのを御存知でありながら……」
と彼女は怨《うら》みもした。
「そりゃあ道理はそうですけれど――まあ訳はいずれ話しますが、どうしても交際が断てないというのならば、私でも疑うかもしれませんよ」
そういって友は立別れた。一葉は、ふとその日の訝《いぶか》しい友の言葉を思い出したので、歌子によってその惑いを解いてもらおうとしたのであった。
「半井さんの事は先生がよく御承知であって、
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