みに離間しようとして成功した。とはいえ、その実それは、一葉自身の弱点でもあった。
恋するものの女らしさ――私はそう思う時に女心の優しさにほほえまずにはいられない。それは彼女が初めて島田|髷《まげ》に結《ゆ》った時のことである。その日彼女が半井氏を訪れたのは、人の口に仇名《あだな》がのぼり、あらぬ名をうたわれるのを憤って、暫時、絶交しようと思っての訪問であった。そうした日であるのに、珍らしくも一葉は島田髷の初結《はつゆい》をした。その日は二十五年六月二十五日のことである。
「しのぶぐさ日記」には、
[#ここから2字下げ]
梅雨《つゆ》降りつゞく頃はいと侘《わび》し、うしがもとにはいと子君|伯母《おば》君|二処《にしょ》居たり、君は次の間の書室めきたるところに打ふし居たまへり。雨いたく降りこめばにや雨戸残りなくしめこめていと闇《くら》し、いと子君伯母なる人に向ひて、御覧《ごろう》ぜよ樋口さまのお髪《ぐし》のよきこと、島田は実によく似合給へりといへば、伯母君も実に左《さ》なり/\、うしろ向きて見せたまへ、まことに昔の御殿風と見えて品よき髷の形かな。我は今様《いまよう》の根の下りたるはきらひ
前へ
次へ
全52ページ中41ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング