八歳の時の憤激
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)父君《ちゝぎみ》

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/\:二倍の踊り字(「く」を縦に長くしたような形の繰り返し記号)
(例)がぶ/\
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 隨筆家としての岡本綺堂を語れといはれて、「明治劇談・ランプの下にて」の中の、ある一章を思ひ出した。
 明治十二年、岡本先生八歳、父君《ちゝぎみ》にともなはれて新富座の樂屋に九代目市川團十郎をたづねたとき、坊ちやんも早く大きくなつて、好い芝居を書いてくださいと、笑ひながら言はれたのを、ただ、それだけならば、單に當座の冗談として聞き流すべきだつたが、更に、團十郎が父君にむかつて、
[#ここから改行天付き、折り返して1字下げ]
「わたくしはそれを皆《みな》さんに勸めてゐるのです。片つ端から作者部屋に抛り込んで置くうちには、一人ぐらゐ物になるでせう。」
[#ここで字下げ終わり]
 といつた、その一言に對して非常に憤激したことを明かに記憶してゐると、「市川團十郎」といふ章に記してある。その
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