籍の行間に、切ない思いを書き入れては送った。
秋の早いみちのくに、九月の風がサッと吹きおろすと、ホロホロッと白露《しらつゆ》は乱れ散った。それを見ていた錦子の、張り切っていた気持ちに崩《くず》れが来て、白い粉の薬を飲んだのが廿三の彼女の一期《いちご》の終りだった。花をさして、机の上に一本の線香をくゆらして――
私は、今日耳にしたのだが、その時、錦子を絶息から甦《よみが》えらせて、四、五日保たせたのは、錦子の許婚《いいなずけ》の人で、それから、その医師は、はやったということだ。
この、明治二十九年には稲舟をさきに、一葉も散り、若松賤子も死んでいる。生前、さほどいじめなくてもよかった稲舟への同情は、再び美妙へのモラル問題となった。それは直《ただち》に、日本橋の妓《ぎ》を正妻にしたからかも知れない。
今は、七十を越して、比丘尼《びくに》のように剃髪《ていはつ》している石井とめ女を、途中で見かけたという便りを叔父《おじ》からもらったが、この章を終るまでに探《たず》ね出せなかったので、錦子との交錯は不明だ。
底本:「新編 近代美人伝(下)」岩波文庫、岩波書店
1985(昭和
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