くようにする、贔屓《ひいき》の書生たちが、席へ陣取ると、前にいっている仲間と一緒になって、下足札《げそくふだ》で煙草盆を叩《たた》いて、三味線にあわせて調子をとり、綾之助なら綾之助が、さわりのところで首を振ると、ドウスルドウスルと叫ぶという、女芸人たちの、ばからしいほどな、素晴らしい人気を思いうかべてもいた。
「でも、あたし、どうしても、やって見るつもりなの。」
錦子は自分の胸に、たしかめるように、噛《か》みしめるように言っているのが、孝子には悲しくきかれた。
「女がなんかしていこうっての、きっと、厭なことも多いでしょうよ。どんな厭なことでも、忍耐《がまん》出来る?」
「どんなことだって、堪えるわ。」
その時、そうは言いきった錦子だったけれど、美妙斎との交渉が深まってくると、堪えきれないことが沢山あった。
おとなしい錦子が、書くものや、上《うわ》っ面《つら》だけではあろうが、なんとなく莫蓮《ばくれん》になって来た。美妙斎の影響だと、孝子は思わないではいられなかった。
「あたしの写真をね、どうしてそんな場所《ところ》へもってらっしゃったのか、芸妓《げいしゃ》が拾ってね、あてつけだっ
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