で、美妙が、美しい詩ばかりでなく、「貧」というのでは、紙屑《かみくず》買いをうたっているといえば、錦子は、坑夫の詩もあるし、車夫の小説もあると負けずに言う。
 この二人が文壇の見立《みたて》を探しだして、面白がって、くらべっこをした。
「凌雲閣《りょううんかく》登壇人(未来の天狗《てんぐ》木葉武者《こっぱむしゃ》)ってのがあるわ。浅草公園、十二階のことでしょ。」
 錦子が展《ひろ》げると、孝子が首をのばして、
「エレベエタア休止中、螺旋《らせん》階にて登りし人――とあるわ。」
と、読みだした。
「頂上十二階までが、春のや主人――坪内逍遥《つぼうちしょうよう》よ。それから、森鴎外、森田|思軒《しけん》、依田学海《よだがくかい》、宮崎|三昧道人《さんまいどうじん》。」
「あたしにも読ましてよ。」
と錦子は引きとって、
「エレベエタアにて一分間に登りし人、頂上十二階まで紅葉山人、露伴子、美妙斎主人――いいわね。」
 錦子は、苺《いちご》のような色の濡《ぬ》れた唇で、
「十一階が二葉亭だわ。それと、漣山人《さざなみさんじん》。十階に広津柳浪《ひろつりゅうろう》と江見水蔭《えみすいいん》よ。五階
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