して來たやうだつた。それは、好戰國民などといつてもらひたくない、哀れな江戸ツ子の血潮のたぎりだととつてやりたい。廿七年來、誠に融通のきかなかつた舊幕人たちが、しかも尾羽《をは》打《う》ち枯らした連中が刀を貰ひにくるのだ。
「さうはないよ、おれも拂つちやつたよ。」
と生涯寢床の下に愛刀をはさんで、柄頭《つかがしら》を枕にならべてゐた人だけに、父は武人の心がけを忘れずといつた顏で、幾振《いくふり》かを出して見せてゐる。
「おれにしたつてさうだが、君方《きみがた》が持つたところで仕方がない、戰に行く人に餞別にやる。」
「いや、かかる折こそだ。名は人夫《にんぷ》でもなんでも好い、戰地へ行つて働きたい。」
大義名分が、彼等を、舊幕臣として働かせず、といつて、榎本武揚や勝安房のやうな勝《すぐ》れた人物《ひと》でもなかつた彼等は、すつかり打ちのめされて、消耗しきつてしまつた維新後の廿七年を、今こそと腕をまくりあげて來は來ても、窮乏陋巷にある彼等は、人夫にも跳ねられさうに痩せてゐた。
だが、そのなかの幾人かが、高知の士族で、紙幣局の役人から失職した人を頭《かしら》にして、盲人縞仕立《めくらじまじ
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