と、追つかけてきたお糸さんが傘のなかでシクシク泣いてゐる。失敗したのかなあと、あれつきり話をきくことが出來なかつた、赤十字社の看護婦のことをきいた。
「いけなかつたの。」
「おたきさんが、もつとよくお考へつて――」
おたきさんは私の母の名だ。
「規則書は貰つたの。」
お糸さんはこつくりと頷《うなづ》いた。そして雄辯に言つた。
「行きましたともさ、すぐに行つて種々《いろ/\》聽いてきたの。今日もちよつと行つて來たのですの。あなたは、まだ年少《ちひ》さいから駄目なのよ。あたくしはね、直《すぐ》にあちらへ行くといふ譯には行きませんけれど、どうにか、看護婦志願は出來るのですけれど――」
私は、年少《ねんせう》でもあらう、けれど、私は母にも誰にも言ひはしないが、胸が痛んでゐるのだつた。だから駄目であらうとは覺悟してゐる。お糸さんの目的を叶へさせたいので、一緒にといつたのだつた。
「そんなわからないこといつて、お母《つか》さん。」
さうはいふが、八釜《やかま》しい姑をもつて、その姑より嚴しくやかましい母を私はよく知つてゐたから、
「今、すぐと言はないでね。」
なんかと、叔母を慰めながら
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