の遠い、深窓《しんさう》とまで大家《たいけ》ぶらないでも、世の中のことを明白には知らせて貰へなかつた娘たちにも、なんともいへない大變なことだと思つてゐたのはたしかだ。
「支那つてこんなに大きいんだわね。」
 女の學問を極度にきらつて、女學校にやられない小娘たちは、藏の二階の隅から、圓い地球儀を持出して來て、溜息をついた。彼女たちが幼少だつたころの父の机の上には、その地球儀があつたのだ。孔雀の羽根の長いのが筆立《ふでたて》に一本さしてもあつた。
 私たちが地球儀を見て、今更に支那を大國《たいこく》と思つたばかりではない、大人たちもさう言つてゐた。後できけば、日本に負けたのでメツキが剥げてしまつたのだが、世界中でさう思つてゐたのださうだ。それにしても私たちが聞きかじつてゐる明治以前の文明は、みんな、唐《たう》や明《みん》を通してきてゐるものだけに、私たちにはわからないから、ただ、ボヤツと驚いた。
 でも、どうも、私の記憶ちがひでなければ負けるつていふ氣はしなかつたやうだ。負けてたまるものかつていふ氣概《きがい》は持つてゐた。敵國人だからといつて、急に憎らしいといふ氣もしなかつた。
 なにし
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