よくわかる。これもおなじ人ではないかもしれぬが、尼御前《あまごぜん》へ與へられたものだ。

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鵞目《てうもく》一|貫《くわん》給畢《たまひをはんぬ》。
それ食《じき》は、色《いろ》を増《ま》し、力《ちから》をつけ、命《いのち》を延《の》ぶ。衣《ころも》は、寒《さむ》さをふせぎ、暑《あつさ》を支《さ》え、恥《はぢ》をかくす。人にものを施《せ》する人は、人の色《いろ》をまし、力《ちから》をそへ、命《いのち》を續《つ》ぐなり。
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 これだけの短かい手紙だが、よく讀むと、衣食の足らねばならぬことと、生命のたつとさを教へ、他人《ひと》も我もおなじく、衣食が足らなければならぬを悟らし、生きることを示された、短文ではあるが意味深い書簡で、布施《ふせ》とか、慈善とかいふことの本義が、ウンと一聲、活を入れられたやうに響く。今の世にも生きて響くたいした手紙ではないか。
[#地から2字上げ](平凡社「手紙講座」卷の三・昭和十年四月一日)



底本:「桃」中央公論社
   1939(昭和14)年2月10日発行
初出:「手紙講座 卷の三」平凡社
   1935(昭和10)年4月1日
入力:門田裕志
校正:仙酔ゑびす
2008年12月7日作成
青空文庫作成ファイル:
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