竹本綾之助
長谷川時雨

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)市井《しせい》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)当時|人形操《あやつ》り

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)ぼんち[#「ぼんち」に傍点]
−−

 泰平三百年の徳川幕府の時代ほど、義理人情というものを道徳の第一においたことはない。忠の一字をおいては何事にも義理で処決した。武家にあっては武士道の義理、市井《しせい》の人には世間の義理である。義理のためには親子の間の愛情も、恋人同士の迸《ほとば》しるような愛の奔流も抑圧してきた時代である。その人情の極致と破綻《はたん》と、抑《おさ》えつけられた胸の炎と、機微な、人間の道の錯誤を語りだしたのが義太夫節《ぎだゆうぶし》で、義太夫節は徳川時代でなければ、産れないもので他の時には出来ないものだ。というのは、武士道からきた道徳と、儒教からきた道徳と、東洋の宗教が教えた輪廻《りんね》説の諦《あきら》めとが、一つの纏《まと》められた思想が、その語りものの経《たて》の太い線になっている。その上に、義太夫節の生れた徳川氏の政
次へ
全18ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング