府の最初に近い年代は、一面に長らく続いた戦国の殺伐で豪放な影がありながら、一面には世の中が何時《いつ》も春の花の咲いているような、黄金が途上《みちばた》にもざくざく零《こぼ》れていれば、掘井戸のなかからも湧《わ》いて出るといったような、豪華な放縦《ほうじゅう》な、人心の頽廃《たいはい》しかけた影も射《さ》しそめていた。その上に人斬《ひとき》り刀《がたな》を横たえて武士は市民の上に立ち、金はあっても町人は、おなじ大空の月さえ遠慮して見なくてはならないほど頭があがらなかった。その時勢に、新江戸の土くさい田舎《いなか》もののずぶとさと反撥力《はんぱつりょく》をもった、新開の土地などでは見られない現象を、古い伝統をもつ大都会、浪花《なにわ》の大阪の土地に見たのは当然の事であったろう。
経済都市大阪のぼんち[#「ぼんち」に傍点]は、酒と女の巷《ちまた》へ、やりどころのない我儘《わがまま》と、頭の廻《めぐ》らしようのない鬱憤《うっぷん》を、放埒《ほうらつ》な心に育てて派手な場処へと、豪華を競いにいったが、家にかえれば道徳の人情責めと、いわゆる世間の義理とが、小むずかしく、光った頭のちょん髷《まげ
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