で鼓《つづみ》の音が丁《ちょう》と響ききこえた。爽《さわや》かに冴《さ》えた音は、しん[#「しん」に傍点]と頭を澄ませてくれた。それにつれて清朗な笛の音も聞える。そして、湿やかに、なつかしみのある三味線の音もあった。
ごしゃごしゃと、乱れた想《おもい》で一ぱいだったと思った頭のなかは、案外からっぽだったと見えて、わたしは何時《いつ》かよい気持ちになって、ある年のある秋の日に、あの広々した紅葉館《こうようかん》の大広間にいて、向うの二階の方から聞えてくるものの音に、しんみりと聞き耽《ふ》けっていたのが、いま目前に浮びあがって、その音曲《おんぎょく》の色調《いろね》を楽しみ繰出している――
――ななつになる子が、いたいけなこと言《ゆ》た。とのごほしと唄《う》とうた……
上方唄《かみがたうた》の台広《だいびろ》の駒《こま》にかかる絃《いと》は、重くしっとりと響いた。こい毛を、まっくろな艶《つや》に、荒歯の毛すじあとをつけた、ほどのいい丸髷《まるまげ》に結《ゆ》って、向うむきに坐って三味線をひいている人がある。すこしはなれたところに、色白な毛の薄い老女が、渋い着ものをきて、半分は後見
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