飛行機に乘つて見たいと言ひ/\したので、朱弦舍《しゆげんしや》荻原濱子が、乘るのなら、わたしもないしよで乘りたいと言つて、それから幾度か、今日はどうだ、明日はどうだときいて來たが、出ようと思ふ日には客があつたり、その日でなければならぬ用事があつて、うまく行かなかつた。去年は主人《あるじ》の病氣でそれどころでなかつたが、十月に、ふと訪れて來た濱子が、なんとなく淋しげだと思つたら、それが最後で、重い病氣《やまひ》になつて、わたしは見舞つてやれないうちになくなつてしまつた。
 こんな面白くもない隨筆を書いては「あらくれ」に申譯ない氣がするが、今の氣持だからしかたがない。
 さういへば、防空演習の夜も雨だつた。その第一夜に、
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空襲に更けしづまりて虫の聲
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 と口ずさんだので、傘雨《さんう》宗匠に、これでも俳句となりませうかと、うかがつて見ようと思ひながらそのままになつてゐる。一ツ書いたらば、どうせ恥の上塗り、やかなも知らぬのだから、ヘボ句といふことにさへもなるまいが、
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防空の霧ふかき夜を出征す
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