瀉《すゐしや》がつづいて來た、具合が甚だよろしくない。
はてな、と妙な顏をしてゐるうちに、夜になると、いよ/\度數を増して來た。さうでなくとも幽門は弱く、胃は小さいと宣告されて、秋雨のころを、夏の冷の出るのを毎年恐れてゐる身ではあり、神經性下痢をやるのではあるし、廣島のコレラで神經過敏になつてはゐるものの、何分原因が原因で、わかりすぎてゐて、氣持ちをかるくして、廿四時間を六十時間位に用ひようとした、大慾は無慾に似たりの失敗であつたから、懷爐を入れて身を丸くして寢て見た。
ところが、半身の重い病人に服させようとしたのであるから、手輕には言はれたが、懷爐ぐらゐで治するやうな、効かない藥ではなかつた。幾度も/\上厠するのを、深夜に氣づかはれまいとするうちに、弱い胃は下から刺戟されて、突き上げるやうになる。痛んでもきて、はげしい胃痙攣とおなじだが、まだしも落付いてゐられることは、手足が冷上らないことだつた。
明方ちかかつた。
「どれ、見てやらうか。」
と隣室での身じろぎに、折角全治に近い主人《あるじ》に、風邪でもひかしては大變だと思つて、返事もせず、寢たふりをして、凝と耐忍《がまん》を
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