うな風情に見えて、それでゐて心は實に強い、實にたまらなくそれが嬉しかつた、男性を向うへ※[#「廴+囘」、第4水準2−12−11]しての宣戰です。それこそ男なんぞは知らない優越を感じたので、誰でも鏡花宗になる時代は屹度一度はある筈です、なければよつぽど不思議な位、そんな女は夢を知らない、御飯とお金と慾情だけ――といふ風にもまあとれなくもないでせう。
 鏡花式とある人は一口にいふ、それは重に侠などこか、奴の小萬式の、たてひきの強い、ぐつとくる癪なのを糸切り齒で噛みころして、柳眉をすこしあげてポンと投出したやうな物言ひをする女人をさすが、先生の好いのはそんなことではありません。さういふと大層大まかな言ひ方になりますが、あのうつむいた、しをらしい、胸の所の帶上げの結び目を、そつと袖を合はしてかくして、美しいえりあしのこぼれ毛をふるはせてゐる、袖口のにほはしい、娘!娘! むすめといふ字がほんとにしつくりあつてゐる――紅梅のやうなどこかに凛としてゐるのも、初花櫻のやうなのも、海棠のやうなのも、芽出し柳のやうなのも、雨に風に露に、夕月にとり/″\に、ほんとうに、うぶに氣品があつてそのくせ優しく、いぢ
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