利欲のほかに恬淡としてゐた、ちとばかものかも知れない江戸女の魂を――ピチ/\生かして料つてくれた親玉です。
もと/\江戸つ子――殘存した江戸つ子なるものは――男はあんまり難有くありません、青鬚で唐棧ぞつきなんて、苦味がありさうで、七五のせまい着付けから膝つ小僧はみださせてゐるのなんて、とてもたまらなく嫌ひなもの、ですが、女の氣持の底にこそ、なんだか大和魂といふものを俗にしたやうな所があると、まあ買ひかぶります。意地と張り――それを掴んで料理して下さつたのが鏡花先生です、土地に生れたものは當り前のことで氣がつかない、それをお前達こんなものを持つてゐると洗つて見せて下さつたものです。
ですが、生地の者では、もうがまんがならないと、ガラ/\と微塵にぶちこはしてしまひさうなところで、凝と、うんと堪へるあの底力がちよつと羨しい、その持合せのないものを注入して下さつたので、殊更私たちには有がたいのでした。
今の世に、私たちには許されない我儘、それを先生の作物はみんな許されてゐる、ゆるされてゐなければ戰つてゐる、誰も彼も女は實に勇敢だ、優しさうに見えて――みんな糸薄、糸萩、露のなでしこといひさ
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