》りると待ちかねて、すすり泣くぞえ舞台裏――
[#ここで字下げ終わり]
 彼女の葬式はすべて抱月氏のにならっておこなわれた。日も時刻も何もかもみんなおなじようであった。ただ柩《ひつぎ》に引添う彼女が見られなくなったばかりで、式場の光景は一層盛大で、数々の花環に取りかこまれ、名ある新旧俳優も列し、弔辞が捧げられた。けれども彼女が遺書の中に繰りかえし繰りかえして頼んでいった抱月氏との合葬のことは問題になった。坪内先生の説は並べて墓を建てたらというので、それには未亡人も、
「坪内先生のおっしゃる事にはそむかれない」
と許したのであったが、かえって彼女の親戚側の方から、
「島村氏と一緒にいたことさえ良いとは思わなかったのだから」
と頑迷《がんめい》なことを言出したため、彼女がとっておいた島村氏の遺髪と一所に葬ることにして、遺骨は信州へ持ちかえられた。彼女ほどに透徹した人生をおくったものが、墓地などの形式を気にかけたのはおかしいが、古来の伝説や何かに美化されたものを思いだしたのでもあろう。
 彼女は何故《なぜ》死んだ、芸に生きなかったかとは言いたくない。彼女には宗教もない、彼女の信仰は自分自身で
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