の折目だつたのを著、晒しの下帶のいつも雪白なのを締め、女房はグチヤつかぬ炊きたての白い飯を辨當に詰めてやるといつた心意氣で、名を惜しみ、受持つ仕事に責任感が強かつたのが、自然女にまで行きわたり、割合に物堅く、キツプのよさとなり、負じ魂となり、死恥をさらすなのたしなみとなつた。
 世がくだるにしたがつて、それが表面化し、勇《いさ》み肌《はだ》といへば、職業的な任侠《にんけふ》の徒や、見得《みえ》を大切にする根性になりさがつたが、大根《おほね》はいまいつたやうなところにあつたのだ。士も工人も、揃つて商人を侮蔑してゐたことが、江戸文學、その他でも隨所に見えてゐる事實で、宵越の錢を持たないといふと、江戸|下町人《したまちじん》の惡い浪費癖のやうに今日の人はとるし、江戸末期の江戸人自體が、さうした間違つた解釋をしないでもなかつたが、あれは武人錢を愛せば、奉公の命が惜しくなる――溜ると汚くなるといつたものを、工人も持つてゐたので、手工業時代ゆゑ、工人は各自の名と手腕を實に大事にした。
 それとこれが結びついて、初鰹の氣負《きつぷ》のよさとなり、切れ味の冴えた肉のしまり、海から飛んできたやうな色艶や
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