慰問袋をぶらさげて、森茉莉さんがニコニコしながらはいつて來ていふには、
 こしらへてゐるうちに、こんなに入れてしまひましたの。なんだか、この袋を貰つた兵隊さん、一番つまらなかないかと、さう思つて詰めてゐるうちに、こんどは、この袋に當つた人、一番|幸福《しあはせ》なんぢやないかと思つたりして――
 と、いみじくもいつて、なごやかに笑つてゐる。茉莉さんは鴎外先生のお孃さんで、小堀杏奴さんの姉さんで、可愛い人だ。文壇女流のみなさんから、「輝ク」へよせられる、皇軍將士への慰問袋が、日に日にうづたかく重なつてゆくのも、なんともいへず嬉しい。
 あたくしは今まで、兄弟にも親戚にも、一家から一人の兵士も出してゐないので、肩身がせまかつた。冬の土砂降りの日など、自分は自動車に乘つて、づぶぬれの兵隊の列に行きあつたりするとなんとも濟まなくてしかたがなかつたが、そのあたくしが、自分は生みもしないくせに、四人もの兵隊を、急に甥たちにもつことになつた。
 四人の兵隊は、みんな一人づつ、妹弟《きやうだい》の子で、三人が三人の妹の、一人は弟の息子。一人の妹が二人の男の子をもつだけで、どうしたことかあとはみんな一粒
前へ 次へ
全6ページ中3ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
長谷川 時雨 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング