三十五氏
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)三十六《みそろく》
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)三十|七《しち》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#地から1字上げ](昭和九年四月 衆文)
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直木さん、いつまでも、三十一、三十二、三十三、三十四とするのときいたら、うんといつた。でも、三十五氏はまだいいが、三十六《みそろく》、三十|七《しち》、三十|八《はち》、それから三十|九《く》はをかしい。みそくふなんて味噌ばかりつけるやうで、まだ三十五氏《みそこし》の方が好いと言つたら、例の、毛の薄い頭の地まで赤くして顎を撫でながら、ふふ、ふふ、ふふと笑つた。あの人物《ひと》が赤面するなぞとは、ちよつと思へないであらうが、あんなに顏を赤らめる人はなかつた。だが、顎をささへて、輕く首を左右へ動かすか、または輕くうなづく時は機嫌がいいのらしかつた。
逼塞《ひつそく》時代の寒い日のある夕方、羽織の下に褞袍《どてら》を着て、無帽で麹町通りの電車停留場に立つてゐたとき、頭の毛が寒風にそよいでゐた細い、丈の高
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