糸繰沼
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)青森《あおもり》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)気味|悪《わ》るがり

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おや[#「おや」に傍点]
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 湖、青森《あおもり》あたりだとききました、越中《えっちゅう》から出る薬売りが、蓴菜《じゅんさい》が一《いっ》ぱい浮いて、まっ蒼《さお》に水銹《みずさび》の深い湖のほとりで午寐《ひるね》をしていると、急に水の中へ沈んでゆくような心地《こころもち》がしだしたので、変だと思っていると、何処《どこ》でか幽《かす》かに糸車《いとぐるま》を廻す音がきこえたともうします。おや[#「おや」に傍点]と気をつけると、暗いところがほんのり明《あか》るくなって、自分は沈みもしなければ浮上《うきあが》りもしないで、水の中にふっと止まっている。向うを見ると、薄《う》っすらと人陰《ひとかげ》が見えて、糸を繰《く》る音がする。心を定めてよく見直すと、品の好《よ》い老女《としより》で、糸を繰る手はやめなかったが、振返《ふりかえ》って薬売りを流し眼に見
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