て「返してやるのではないが、お前に言便次《ことづけ》をしてもらいたいから、助けてあげる。」と言って「奥州閉伊郡《おうしゅうへいごおり》の中妻《なかづま》の里というところに、こういう家《うち》があるからその家《うち》へ行って、おばあさんは此処《ここ》にこうやっていると伝えてくれ。」と頼まれたかと思うと、おばあさんの姿も、糸車の音も消えて、薬売りは人の助けに生返《いきかえ》ったのでした。無言《だま》っていろと口をかためられたのですから、薬売りは一人で気味|悪《わ》るがりながら、その家《うち》が誠《まこと》にはないようと祈ったり、そんな馬鹿馬鹿《ばかばか》しいことがありようはないと思ったりして、それでも「池の主《ぬし》になっているから、姿をかくしたが安心してくれ。」という伝言《ことづけ》をせねば、自分の重い役が一生とれぬ心地《こころもち》もするので、てくてく[#「てくてく」に傍点]中妻の里を忘れもせずに商業《しょうばい》しながら探ねてあるくと、或《ある》日言われた通りの、門構えの家《うち》を探ねあてたのでした。薬売りは顫《ふる》えあがったそうで、兎《と》に角《かく》主人にあって、その顛末《て
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