つくらせられてしまうよといったらば、いや決して僕は魅惑されないといっていたのが、いつか銀の猫をつくって、呈上してしまって、そういったものへは内密にしていた。だが、それが縁で、デスマスクはその人がつくったということだ。

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あなかしこ神にしあらぬ人の身の誰《たれ》をしも誰《た》が裁くといふや
ただひとりうまれし故にひとりただ死ねとしいふや落ちてゆく日は
をみなはもをみなのみ知る道をゆくそはをのこらの知らであること
[#ここで字下げ終わり]
[#地から1字上げ]――歌集『薫染《くんぜん》』より――

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はつ春の夜《よ》を荒るる風に歯のいたみまたおそひ来ぬ――
[#ここで字下げ終わり]
 この最後の一首は、磯辺《いそべ》病院で失《う》せられた枕《まくら》もとの、手帳に書きのこされてあったというが、末の句をなさず逝《ゆ》かれたのだった。

「嵯峨《さが》の秋」という脚本のなかで、蓮月尼《れんげつに》には、こう言わせている。
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みめよい娘《こ》じゃとて、ほんに女は仕合せともかぎりませんわいな。
おお、そうですぞ、おまえさんの正直な
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