けない前に、ある日の日かげを踏んで、足|許《もと》にあつまる鳩《はと》を避《よ》けて歩きながら、武子さんに、ずっと裏の方の座敷で逢ったことがあった。その時ふと胸にきたものは、あんなに麗《うらら》かな面《おも》ばせで、れいれいとした声で話されるに、憂苦《ゆうく》といおうか、何かしら、話してしまいたいといったようなものを持っていられるということだった。
その時、
「※[#「火+華」、第3水準1−87−62]《あき》さまは、どうしてあんなことをなすったのでしょうね。」
と、突然と武子さんがいった。それは、白蓮《びゃくれん》さんが失踪して間もなくで、世上の悪評の的になっているときだった。
二人は目を見合わせたきりで、探りあう気持ちだった。この人は、もっともっと大きい苦悶《くもん》をかくしているなと、思った。
震災に、なんにも持たずに逃《のが》れ出たが、一束《ひとたば》の手紙だけは――後に焼きすてたというが、――あの中で、おとしたらばと胸をおさえて語ったお友達がある。――そういえば、秋の夜であり、きくであり、そのほかにも、種々のかえ名があるにはあったが――
武子さんは、もうちゃんと、あ
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