鏡二題
長谷川時雨
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【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)姿見鏡《すがたみ》
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)へだて[#「へだて」に傍点]
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暗い鏡
鏡といふものをちやんと見るやうになつたのは、十八――九の年頃だつたと思ひます。その前だとて見ましたが、鏡にうつる自分を――まだそのころだとて顏だけですが――見たといへませう。十七位の時分は寧ろ姿全體にうつるもの――姿見鏡《すがたみ》でなくつても、硝子戸なんぞでも氣まりが惡かつたので見ないふりをして、その癖誰も見るものがないとしげしげと見詰めたものです。どうも體のどこもが丸くなるのが――尻《いしき》などが極立《きはだ》つて格好が惡くなつて厭でした。
鏡といへば、子供のころ家に新舊二樣の鏡があつて、どれを見ても心を暗くしたのを覺えてゐます。八十八の祖母は舊式でしたから箪笥のある部屋へ障子屏風をたてめぐらしてその中に鏡臺が飾つてあつて、鏡は丸い鋼《かね》の鏡――夏になるとよく磨師《とぎし》に磨かせてゐましたが、とにかく黒ずんだ、沈んだ顏が鏡の底の底の方に生氣なくう
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