早く行って帰って来て、掃除やなにか手つだおうと思った。

       二

 朝夕に、腰を撫で、肩をもんであげた祖母は、八十八歳であたしの十五の春に死んだ。あたしを一番愛していたが、厳しいしつけでもあった。一ツ身を縫うにも、二度三度といて、縫い直しをさせるのだった。そういうことを恥かしがらないアンポンタンでも少々気まりの悪いこともあるし、教える人の方が、まだ小娘さんなのに、あんまりひどいと怒ることもあった。
 ともかく、あたしの教育は、本を読ませないことというに、何時かきまってしまっていたが、まだしも祖母のいるうちは、あたしも小さくなっていたし、母たちも幾分祖母へ遠慮をしていたが、段々とあたしは知恵を出して来た。読み書きをするのに、母が労れて眠る時分をはかり、妹と二人寝る部屋の障子の方へは、屏風やら何やらで灯影をさえぎり、これでよしと夜中の時間を我がものがおに占領しだした。
 ところが、洋燈《ランプ》の石油はへって、ホヤは油煙で真っ黒くなる上に、朝寝坊になって、父が怒って、冷水《みず》をあいている口へつぎ込むことなど、仕置きされることが重なってしまった。ある夜中には、寝たと思った母が
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