部屋へはいって来て、大いに怒って父を呼び、父が優しくて見逃しているのだというので、父から楊弓をもって激しく折檻された。祖母のいるころでも、母が強く怒ると、姐《あね》さまのはいっている手箱も、書きものの手箱も、折角、かくして、ぽつぽつと溜めた本類も、みんな焚《も》してしまわれたりしたが、そんなにしても、妹たちも好きだったので、いろいろな工夫をしてくれた。家にも何かしら読みものは多くあった。母が、浴衣ならば、家内が多いので、一度に十反くらいを積んで、縫えと出すと、もう家にいて縫うようになっていたので、静かな、なるべく母の目から遠い二階の部屋にあがって、それこそ朝の仕事も早くすませ、身じんまくも早くしてしまって坐る。そうなると、頭をよく働かして、たいへん手早く巧者に裁断《たっ》てしまって、早縫いの競争なのだが、母が見廻りにくると、実に丁寧な縫いかたをしている。で、一日に一枚はこの分ではどうかと思ってもらっておいて、次の妹と二人がかりで、二枚も三枚も拵らえあげてしまって、それからの残りの時間を、雑読、乱読、熟読の幾日かをものにしていた。
 そこで、おかしいのは、母は、なんでそんなに厳しくしたか
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