にひっくりかえされて、血をあびたようにこぼしてしまってから、それが長唄杵屋のお揃いで、学校の帰途《かえり》に行く月浚いに、間にあうように新しく縫われた浴衣であるにしろ、それだけの過失で、英語は下げられてしまった。
 しかし、子供というものは、不思議なところで自分を生かすものである。読みと、算術――珠算《たまざん》を主にして、手習いと、作文だけの学校でも楽しかった。遊び時間はかなりあるから、あたしはみんなの石版をならべて、即興のでたらめのお話――児童作品長編小説を、算用数字の2の字へ二本足をつけて、毎日つづけて話すのだった。これはたいした人気で、あたしのお座は、十重《とえ》にも取りまかれ、頭の上からも押っかぶさるほどに愛された。
 このことを、ある時、校長秋山先生が自慢で、家へ来て話されると、どうも、いけない結果があらわれて来た。
 折りもおり、幼少から可愛がって、自慢の弟子にしてくれていた長唄六三郎派の老女《としより》師匠から、義理で盲目《めくら》の女師匠に替えられたりして、面白味をなくしていたせいか、九歳《ここのつ》の時からはじめていた、二絃琴の師匠の方へばかりゆくのが、とかく小言を
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