よい、揃って覇気《はき》のある、若い役者の大役を演じるところだった。そこに、後に工左衛門となった、市川|鬼丸《きがん》という上方《かみがた》くだりの若い役者がいて、唐茄子屋《とうなすや》という、落語にもよくある、若旦那やつしが、馴れぬ唐茄子売をする狂言が当って、人気が登って来たが、坊主頭の女隠居がついているというので、大変やかましい取り沙汰になった。その当時、そうしたみだらごとで、女隠居の名が新聞に出るということなどは、この物堅い大店町では、実際たいした内面暴露なのであったが、ものに動じない女隠居は、資産《かね》のあるにまかせて、堀留から蠣殻町まで、最も殷賑《いんしん》な人形町通りを、取りまき出入りの者を引きしたがえて、廓《くるわ》のなかを、大尽《だいじん》客がそぞめかすように、日ごとの芝居茶屋通いで、世間のものを瞠目《どうもく》させたのだった。男|妾《めかけ》――いやな字だが、そんなふうにも書かれた。男地獄《おじごく》――そんなふうにも言われた。だが、幼いものには、なんのことだかわからないが、憎々しい坊主女だとは思った。
 このお婆さんが、人もなげな振舞いを、当主がどうして諫《いさ》
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