を示す記号、395−13]丁字星だとか、それが三つ組んでいるのが丁吟《ちょうぎん》だとか丁甚《ちょうじん》だとか――丁字屋甚兵衛を略してよぶ――※[#「仝」の「工」に代えて「二」、屋号を示す記号、395−14]《やまに》だとか、※[#「◯」の中に「十」、屋号を示す記号、395−14]《さつま》だとかいうのだった。そうした大店の棟《むね》つづきで、たてならべた門松などが、師走末の寒月に、霜に冴《さ》えかえって黒々と見える時は、深山のように町は静まりかえって、いにしえの、杉の森の寒夜もかくばかりかと思うほど、竦毛《おぞけ》の立つひそまりかただった。
 いま、ここに、ちょっと出てくる杉本八重さんも、そうした大店のお嫁さんだったのだ。あいにく、幼少《ちいさ》かったわたしは、美しかったお嫁さんのお八重さんの方を見ないでしまって、憎らしいおばあさんの方を見たことがあるが、そのお姑《しゅうと》さんの方も顔にハッキリした記憶が残らないで、話の方が多く頭のお皿のなかに残されている。尤《もっと》も、ほんとの主題は、この二人の方でなくて別にあるのだから、どうでもよいというものの、事実は決してつくりごとではな
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