ぞいている。その間からお酒に胸《むな》焼けのしている皮がはみだすのを、招き猫のような手附きで話をしながら、時々その手で、衣紋《えもん》を押上げるのだった。羽織の紐《ひも》が閂《かんぬき》のように、一文字に胸を渡っていた。
おおかめさんの顔で目立つのは、額と頬っぺたの広々とした面積で、高く盛上っている。口も反《そ》って分厚な、大きな唇をもっていた。そのかわりに、謙遜《けんそん》すぎるのが鼻と眼だった。眼は小いさいばかりでなく、睫毛《まつげ》が、まくれこんでいるので――トラホームだったのかもしれない――小いさいばかりでなく、白っぽく、光りがなくて、そのくせ怖かった。まわりからくる体つきの愛嬌《あいきょう》で、ニコニコしているように見えたが、眼は決して笑っていなかったその眼の無愛想《ぶあいそう》をおぎなって、鼻が親しみぶかかった。お団子を半分にして、それを拇指《おやゆび》でおしつけたように、押しつけたところがピタンとしている。大きな鼻の穴が、竪《たて》に二つ柿《かき》のたねをならべたように上をむいている。
頭は、薄い毛の鬢《びん》を張って、細く前髪をとって――この時分、年配者は結上げてか
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