どじょう汁の大旦那も、古道具やから、高価な偽物《にせもの》をつかませられる好《い》いお顧客《とくい》だった。
 おおかめさんは、家《うち》では金が出来てしかたがないのだといった。いつでも、せまいほど家のなかがウザウザして、騒々《そうぞう》しい家《うち》だった。樽《たる》づめのお酒を誰かしら飲口《のみくち》を廻していた。放縦《ほうしょう》だった。娘たちは、夜になるとねんねこを着た襟を、背中の見えるまでグッと抜衣紋《ぬきえもん》にして、真白に塗った頸《くび》にマガレットに結って、薔薇《ばら》の簪《かんざし》を挿したり、結綿《ゆいわた》島田に結って、赤と水浅黄の鹿の子をねじりがけにしたりして、お酒をのんでいた。おおかめさんが寝間着に寛袍《どてら》をはおって、大座ぶとんに坐り、それをとり巻いて振り将棋みたいなことをして、みんなが賭《か》けた小銭を、ザクザクと、おおかめさんは座ぶとんや、膝《ひざ》の間に押入れて、忽《たちま》ちのうちに勝ってしまう遊びをした。パースでも、みんながかけた。おはなもした。
 束髪の娘は英語の教師に走り、結綿は駈落ちするところを、小僧の亀《かめ》どんが見つけて騒ぎ出した
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