大門通り界隈一束
続旧聞日本橋・その一
長谷川時雨

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)古郷《ふるさと》

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)町|少女《おとめ》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)おとめ[#「おとめ」に傍点]といえば、
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 あたしの古郷《ふるさと》のおとめ[#「おとめ」に傍点]といえば、江戸の面影と、香《か》を、いくらか残した時代の、どこか歯ぎれのよさをとどめた、雨上りの、杜若《かきつばた》のような下町|少女《おとめ》で、初夏になると、なんとなく思出がなつかしい。
 土《つち》一升、金《かね》一升の日本橋あたりで生れたものは、さぞ自然に恵まれまいと思われもしようが、全くあたしたちは生花《きばな》の一片《ひとひら》も愛した。現今《いま》のように、ふんだんに花の店がない時分だから、一枝の花の愛《いと》しみかたも格別だった。紅梅が咲けば折って前髪に挿し、お正月の松飾りの、小さい松ぼっくりさえ、松の葉にさして根がけにした。山吹の真白なじく[#「じく」に傍点]も押出して、いちょうがえしへかけた。五月の節
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