句には菖蒲《しょうぶ》の葉を前髪に結んだり、矢羽根《やばね》に切ったのを簪《かんざし》にさしたものだった。
新藁《しんわら》は、いきな女《ひと》の投島田《なげしまだ》ばかりに売れるのではなく、素人《しろうと》でも洗い髪を束ねたりしてよく売れた。燕《つばめ》の飛ぶ小雨の日に、「新藁、しんわら」と、はだしの男が臑《すね》に細かい泥を跳《は》ねあげて、菅笠《すげがさ》か、手ぬぐいかぶりで、駈足で、青い早苗を一束にぎって、売り声を残していった。
水玉という草に水をうって、涼しくかけたものだが、みんな一時《いっとき》のもので、赤くひからびるまではかけていない。直《じき》にかけかえる手数はいとわなかった。一たい、平日《ふだん》から油|染《じ》んだ髪をきらっていたから、菅糸《すがいと》だって、葛引《くずひき》だって、金紗《きんしゃ》(元結《もっとい》ぐらいな長さの、金元結の柔らかい、縒《より》のよい細いようなのを、二、三十本揃えたもの。芝居の傾城《けいせい》の鬘《かつら》[#「鬘」は底本では「鬢」]にかけてあるのと同じ)だって、プツンと断《き》って、一ぺんかけただけだった。
深窓《しんそう》な
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