きめてしまって、父の方へ抗議がいった。
「あなたが、そんなくだらないものを読んで、考え込んでお出《いで》なさるから、子供のくせに真似をして黙りこんでいて、溜息《ためいき》なんかつくから、陰気くさくって困るじゃござんせんか。」
父はおかしな人だった。恐縮して俳句をやめ、私を叱《しか》らないで、あんの山からこんの山へ、飛んでくるのはなんじゃろか、と頭に二本、指だか扇子だかを、兎の耳のようにおったてる小舞《こまい》を、能の狂言師をまねいて踊りだしたが、そんな小謡《こうたい》は父が汗を出して習うより早く、障子《しょうじ》にうつる影を見て、子供たちの方がおぼえてしまった。
あんの山よりこんの山へとか、頭《かしら》に二つ、フッフッとか、誰もかれもが唄《うた》い、踊りだすので、父が照れて止《や》めて、こんどは茶の湯、家中が、そろりそろりと畳をすってあるく――だが私の溜息《ためいき》をついたのは、別段、父の真似をして黙想したのではなく、胸に病《やまい》をもちはじめたのを誰もが思いもつかなかったのだ。堅い棒で肩を叩《たた》いたり、肋骨《ろっこつ》をもんだりするのを、ただ読物のせいにばかりした。机によ
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